長編歴史小説
大坂の華
by 佐山 寛
第二章
死 闘
四
島屋敷に戻ってきたのは義助と三郎太のみである。ずぶぬれになった二人の格好を見た重吾が驚いて言った。
「二人ともどうした?」
「面目ありません。弥平を討ち損ねました」
「銀次は?」
「我等とて身一つで逃れるのがやっとで…。銀次のことゆえ、そう易々と捕らわれはしないかと思いますが」
「うむ・・・、少し弥平を見くびっていたようだな」
「それに、すぐ新手の軍勢が現れたところを見ると、これはよほど連絡が取れていると見なければ・・・。確かに徳川勢でした」
孫市が割って入る。
「重吾殿、銀次さんは大丈夫なのでしょうか。それに、これでは兄者の身も心配です・・・」
「あれほどの忍び故、死にはすまいが・・・。風間殿には殿が付いておられるゆえ、まず大丈夫でしょう」
そのとき、屋外に人の気配がした。義助が座を立って戸口から外をうかがうと同時に、銀次が倒れ込んできた。
「あっ、銀次」
「銀次!」
銀次の顔は土色に変じ、衣服は裂け、左腕がヒジの辺りから切断されていた。思わず義助が駆け寄る。
「め、面目ない。やられた」
銀次は義助に寄り掛かったまま、気を失った。
「これはひどい」
「お頭、早く手当を」
「おう、孫市殿、お手を煩わせて申し訳ないが、城内に斎藤元丹先生という医者がおられる。大至急呼んできていただけませんか」
「わかりました。すぐに」
孫市が出て行ってから暫くして、銀次の意識が戻った。
「お頭…、申し訳ない」
「銀次、あまり口を開くな。このかたきは必ずとってやるぞ」
「敵には弓鉄砲の用意もありました。一旦は捕らえられましたが、最後に一つ油紙に包んだ煙玉を残しておいたのが役に立ちましたが、このていたらくで」
「いや、よく逃れてきた。銀次でなければきっと殺られていたろう」
「お頭、弥平は尋常ならぬ忍びで」
「うむ。今後の策を立て直さねばならぬようだ。先程総動員をかけた」
また銀次の意識がもうろうとしてきたようである。そのとき、孫市と斎藤元丹が戻って来た。
つづく
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